京都大学高専会
体験記(776)

ハンドルネーム

776

編入学年度

令和6年度

京都大学での学科・コース

電気電子工学科

出身高専・学科

明石高専 電気情報工学科 情報工学コース

高専時代の順位

  • 1年:2番
  • 2年:1番
  • 3年:1番
  • 4年:5番
  • 5年:A(1~6番)

他大学の受験状況

  • 大阪大学 基礎工学部 電子物理化学科 物性物理化学コース (合格)
  • 大阪大学 工学部 応用自然科学科 応用物理学科目 (合格)
  • 東北大学 工学部 電気情報物理工学科 電気・情報関係5コース (合格)

どの大学も素晴らしく、特に阪大工学部と東北大学は京大を辞退して進学しようかと考えるほど魅力的でした。

余談ですが、今年度の京大編入生は皆阪大工学部応用自然科学科を受けていたみたいです(生ういろう氏とはその時に知り合った)。なお全員が阪大の辞退届を入学手続きが始まる直前の二月頃に提出したため、阪大工学部の教授たちの京大志望生に対する印象は最悪になってしまったかもしれません…

編入の勉強を始めた時期と勉強時間

低学年の頃も普段からそれなりに勉強はしていましたが、編入試験を視野に入れて勉強し始めたのは4年の夏休みからです。この頃は毎日市営の図書館へ赴きTOEFLの勉強をしていましたが、後期が始まってからは高専での講義が信じられないほど忙しくなったため、次第に編入試験対策に割く時間は少なくなっていきました。

そして春休みに入り、勉強時間が十分に確保できるようになったことに加え、周りの友人たちも編入試験対策の勉強をし始めていたため、私も勉強を再開しました。ただこの頃も勉強時間は日平均4時間を超えない程度だったので、そこまで真剣に勉強していたわけではありません。

春休み明けからは研究室が自由に使えるようになったため、放課後は常にそこに籠るようになりました。4限終わりの16時から友人と色々教えあったりしながら勉強して19:30頃に学校を出るという生活を繰り返していました。さらに5年の前期は奇跡的に金曜日を全休にすることができたため、金曜と土曜は近所の図書館に開館から閉館まで滞在して勉強していました。

5年前期の最終盤である8月に入ってからは、小中学校が夏休みに突入したことで図書館が混雑するようになり、次第に席を確保しづらくなりました。また朝10時に開館することが朝型の自分にとって勉強時間の無駄を感じる要因となっていたため、朝早くから勉強できてかつ席取りの心配が必要ない有料自習室を契約しました。夏休みに入ってからはほぼ毎日朝の7時から夜の9時頃まで自習室に籠って詰め込みを行う日々を送っていました。

またこの頃、編入試験が立て続けに訪れました。カレンダー上では試験日は各々1週間ずつ離れていましたが、実際には試験日が2日間に渡ったり遠方試験の場合前乗りする必要があったりしたために、試験勉強に充てられる時間が見かけ以上に少なかったです。肉体的には非常に辛かった一方、精神的にはむしろ適度な気分転換になって良かったです。

つまらない私事をつらつらと述べましたが、勉強時間だけを抜粋すると次の通りです。常に集中しているわけではないので、全て合算すると実質600時間程度?

  • 4年夏休:3~4時間/日
  • 4年後期:ほぼnull
  • 4年春休:3~4時間/日
  • 5年前期:(平日) 3~4時間/日 (金・土) 10時間/日 (日) null
  • 5年夏休:10~13時間/日

一般科目の勉強

英語

とりあえず腕試しでTOEFLを受けてみるも爆砕したので半年ほど受験を謹慎しました。この時の結果を見ると、特にスピーキングとリスニングが弱点であることが判明したため、この2点だけZ会出版の‟エッセンスシリーズ”を購入して2週間ほど特訓し、その後のTOEFLで75点を取得できたため勉強終了しました。

腕試しで受ける際の対策として使っていたTOEFLのOfficialGuideは、試験の要点や解説も含めすべて英語で記述されているため、TOEFL初学者にはあまりお薦めできません(現に自分も読むのにとても苦労しました)。対策用の参考書としては日本語で書かれたTOEFL入門書等がおすすめですが、どうしてもOfficialGuideを使用したい場合はBookOffの洋書コーナーを漁ってみてください、1000円弱で売られているはずです。

数学

過去問特訓のC問題を1章から順番に解いていましたが、行列の章に入ったあたりで飽きたので放り投げました。あとは阪大基礎工の過去問を数年分解いただけです。

物理

  • 力学
  • 講義で全範囲を学習済みであったため、初めからサイエンス社の演習力学を用いて問題演習を行いました。解析力学の章は試験で出題されないため飛ばしていましたが、大学に入ってから学習すると非常に便利で有用な単元であることを知りました。時間がある方は公式の丸暗記でも構わないので一通り勉強することをお勧めします。

  • 電気磁気学
  • 一度は授業で習いましたが、当時の定期テストは公式を丸暗記するだけの姑息な理解で乗り切ったため、もう一度学習し直す必要がありました。初めは後述する参考書を一読して全範囲を復習し、その後サイエンス社の演習電磁気磁気学で問題演習しました。

  • 熱力学
  • 参考書(後述)を一か月ほどかけて一周しました。ただこれは阪大や東北大の試験対策を目的に行ったものなので、京大ではどちらかというと化学の対策に含まれるかもしれません。

化学

  • 無機化学
  • 4年の夏休みにSensorの全問題を解き、試験直前の夏休みに‟無機化学が面白いほど分かる本”を流し読みして復習しました。

  • 有機化学
  • マクマリー有機化学の分析化学の章までを例題を解きながら読み進め、その後はサイエンス社の演習・有機化学で問題演習しました。近年の傾向を見ると、大学有機の出題が年々少なくなっているため、Diels-Alder等の有名な反応のみを抜粋して覚えるだけで良いかもしれません。

  • 物理化学
  • ‟薬学のための物理化学”を例題と章末問題を解きながら読み進め、その後はサイエンス社の演習・物理化学で問題演習しました。ただサイエンス社のこの参考書は誤植が著しく多いにもかかわらず、その訂正がWeb等で一切されていない為あまりおすすめしません。

編入試験の出来の項でも述べますが、ここ数年の京大の試験傾向を鑑みると、大学化学をむやみに勉強するよりも高校化学用の問題集を完璧にした方が高い得点率が見込まれると思います。

お薦めの参考書

有名なものを挙げてもつまらないので、ここではマイナーなものをいくつか

  • 大学への数学
  • 大学の一般入試を受ける高校生向けの月刊雑誌。大学受験用なだけあって範囲も内容も編入試験数学のものとは異なっているが、逆に編入試験用参考書では学べないような、難解な問題への手の付け方や解法を天下り的に見つける方法など大学受験用のテクニックを学べる。特に確率や場合の数、微積等の回は一読の価値あり。

  • 薬学のための物理化学
  • アトキンスみたいな重い参考書を持てない私が、代わりになる物理化学の教科書を図書館で探していたときに偶然見つけた書籍。ギブス自由エネルギー、クラジウス-クラペイロン、相転移などの難解な概念を丁寧な導出で説明している。解説だけでなく練習問題がそれなりにあるのも良い。軽くはないがアトキンスよりも重くない。薬学勉強者のための教科書なので電池など一部の分野が収録されていないのが欠点。

  • フロー式 熱力学
  • どこかの編入体験記で誰かが激烈に推薦していた教科書。説明ではなく豊富な例題を解くことで読者の理解を促すチャート式のような参考書。マクスウェルの関係式等、熱力学特有の式変形を丁寧に学べる。ただ編入試験に頻出の気体分子論だけ載っていない。

  • 電気磁気学 -その物理像と詳論-
  • 明石高専生が3年後期の授業で購入させられる教科書。担当教員の講義の進め方ゆえに誰もまじめに使わないが、実はこれ一冊で電磁気学を細部まで完璧に学べる良書。唯一演習問題が少なめなので、そこだけ電磁気学演習等の教科書で補えばよい。

TOEFLの点数

令和4年10月8日 38 (R:16, L:7, S:1, W:14)

令和5年3月18日 75 (R:18, L:19, S:17, W:21)

編入試験の出来

一般科目

  • 数学:7割
  • 難しいというより煩わしい問題が多かった印象です。前半部分は完答できましたが、最後の確率の問題のみ考え方が分からなかったため、全体としては7割程度の出来だと思います。

  • 物理:7割
  • 物理は両端におもりのついたばねに撃力を与える問題で、電気回路はトライフォース型の回路からの出題でした。電気回路は完答で、物理の方は最後の小問がいくつか解けなかったため、全体として7割程度の出来と予想しました。

  • 化学:4割
  • まさかのほとんどが高校化学からの出題で、以前まで問題の大部分を占めていた大学有機は小問にして2問しか出題されませんでした。今後もこの傾向が続くようなら、化学の対策ではマクマリー等で大学範囲を学習するよりも、Sensorや化学重要問題集を周回して高校化学を完璧にした方が高得点を見込めるかもしれません。

これは結果を見る前の私の予想です。実際の結果はこちら

総括としては、今年の試験も例年の流れに洩れず易化したなという印象です。しかしそれに対して合格者数は例年よりもかなり少なくなっているため、合格基準点は引き上げられているのではないかと予想しています。特に京大は通説として「全体で6割を超えれば受かる」と言われてきましたが、今後は7割を目標に据えておいた方が無難かもしれません。

面接(口頭試問)

形式

私がホワイトボードの前の椅子に座り、それを前に座る7~8人の教授たちが質問するという形式です。主に質問していたのが白石教授であることだけ後日把握できました。

はじめに簡単な面接を10分程度行い、その後口頭試問に移ります。

聞かれたこと

  • 受験番号、氏名
  • 志望理由
  • 高専では情報を専攻していましたが、卒研に取り組むうちに物性系の方に興味が湧いてきました。大学では電気電子系の学科に専攻を変更したいので、2年次編入で教養科目も含めて基礎から学びなおせる御校を志望しました。

  • どのような大学生活を送りたいですか
  • 高専以上に自由な校風に惑わされず、しっかりと自分を律して勉学に取り組みたいです。

    →他の方の体験記でも頻繁に散見されるので、電電では必須の質問なのではないかと思います。私は当日質問の意味を汲み取れなかったため、入学後の勉学の姿勢について無難に回答しましたが、実際はどのような課外活動・研究等を行いたいのかを訊きたかったのではないかと推測します。

  • 大学卒業後の進路
  • 博士までぜひ行きたいです!

    →宣言通りに行動する必要もないため、どの大学の面接でも強気に「博士まで行きます」と言いました。なおその後、高専の卒研ですら挫折するなんて当時の私は知る由もありませんでした。

  • 筆記試験の出来
  • 全体的によくできたと思います。ただ化学は蓋を開けてみればほぼ高校内容からの出題だったため、もう少し勉強していれば取りこぼすこともなかったと後悔しています。

  • 卒研のテーマ
  • ニューラルネットワークポテンシャルを用いた粒界の再現

    →本当にタイトルだけ答えましたが、せめて固有名詞ぐらいは説明するべきだったと反省しています。

  • 他の受験校とその合否

口頭試問では専門科目1問と数学か物理のどちらか1問の合計2問を、ホワイトボードを使いながら教授たちに解いてみせます。再現問題をpdfで添付するので是非一度ご覧ください。

コメント

おそらく口頭試問がメインなので、面接の内容はそこまで興味がない様子でした。ただ教授という人間の性格上矛盾した回答は指摘せずにはいられないようなので、自分の話している内容が辻褄の合っているものになっているかは常に確認しておいた方がいいかもしれません。現に東北大の面接では志望動機で「研究室でマテリアル関係の研究を行っているため、材料系の研究が盛んな御校を志望しました」という旨のことを述べたところ、「あなたが行っているのは基礎研究なので、東北大が重視している応用研究とは相いれない気がしますが」という指摘を面接中受け続けました。

志望動機

上に書いた通りです。本音を言えば、浪人や留年といった否定的に捉えられがちな理由無しにもう一年学生生活を送れることは、娯楽と勉学の両方の面において大きな意味があったからです。

余談ですが、京大編入生は皆同じような考えを持っているらしく、私の知る限りでも「実質1年留年だが、それでも京大で学びたい」というより「京大という素晴らしい環境に普通よりも1年長く身を置けることはむしろメリットだ」と考えている人が多い印象があります。

受験生へ

編入試験やその勉強は辛かったという人が周りには多かったですが、むしろ私にとってはとても楽しい思い出でした。他高専の知り合いを作ったり、普段話さないクラスメイトと食事に行ったり、試験前日に付近を観光したりと、行く先々の大学で多くの非日常な体験をできました。また受験する大学のことを調べるうちに思いもかけない強みや魅力を発見し、自分の視野を広げる機会にもなりました。来年以降に編入試験に挑戦される方は、不純な動機でも構わないので是非いろいろな大学を受験してみてください。

話は変わりますが、五年の選択科目は卒業で必要でない限りは取る必要はありません、どうせ単位認定されないので。

試験当日は京阪を使ってください。新幹線で向かわれる場合は、新大阪→(地下鉄御堂筋線)→淀屋橋→(京阪)→出町柳です。ご用のある方はTelegram:@Tra776に気軽に連絡してください。

2024年08月20日 by 776